八重山地方に伝わる「ミルク神」
沖縄の最南端にある八重山地方のお祭りには、「ミルク神」とよばれる神が登場し、ふっくらとした顔立ちがその特徴である。
本土では全く聞き慣れない言葉であるが、八重山地方では古くから知られた神である。
どこか人のよさそうな優しい表情で描かれることが多く「豊穣の神」として知られ、豊穣を祈願するお祭りや豊年祭などにはよく登場する神様だ。
「ミルク」とは「弥勒(ミロク)」が沖縄の方言に変化したもので、敬称をつけ「ミルクガナシ」と呼ばれることもあり、沖縄では古くから中国やベトナムから伝わった弥勒信仰が盛んであった。
弥勒とは釈迦入滅後、56億 7000万年後にこの世に出現し、釈迦の説法で救済しきれなかった衆生を救済するというものである。
つまり沖縄では、ミルク神といえば「弥勒菩薩」を唱える民話も数多く語り継がれている。
一方で、沖縄ではまだ見ぬあの世の楽土「ニライカナイ」とよばれる信仰があり、神はそこから地上に現れて、五穀豊穣をもたらしてくれるという土着信仰が伝えられている。
このニライカナイの思想に弥勒信仰が融合し、弥勒は年に一度ニライカナイから五穀の種を積んでやってくる豊穣の神、「ミルク神」であるという信仰が生まれたのである。
ミルク神の姿とその特徴
八重山地方で行われる豊年祭などには、弥勒の仮面をかぶったものが多く存在するが、中国で弥勒の化身とされた「布袋和尚」の姿をしており、いわゆる日本の仏像にある弥勒仏とは異なる姿をしている。
これは中国やベトナムに弥勒信仰のルーツがあるからであると考えられている。
八重山地方ではそれぞれ少しずつ特徴の異なる弥勒を持っているが、頭巾や黄色い着物を纏い、赤、黒、白の長い杖を持っていることが一般的で、祭りでは左右に踊りながら歩くのである。
もっとも最初にミルク神が登場したお祭りは石垣島に伝わる豊年祭と伝えられており、1791年に黒島の役人が公務で首里に行く際に遭難をしてベトナムに漂流し、そこで見たミルク神に感銘を受けたことがそのはじまりといわれている。